タレントマネジメントは中小企業では導入不要? 代わりに導入すべき制度・仕組みとは

近年、日本国内では時代の変化に伴い、人々の働き方に対する考え方も変化し、多様化が進んできました。そんな中、新しい人材マネジメントの方法として、タレントマネジメントが注目されています。しかし、成功事例の多くは大企業ばかりといった印象です。

果たして、タレントマネジメントは中小企業でも導入すべきなのでしょうか?

この記事ではタレントマネジメントの導入を検討している中小企業の方に向けて、タレントマネジメントを導入すべきかどうか解説します。

また、タレントマネジメントを導入する前に検討したいほかの有効な方法についても紹介しますので、会社の人事制度の見直しを図る上できっと役に立ちますよ。

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、タレント(従業員)の経歴やスキル、評価や目標などの情報をデータ化し活用することで、適材適所への配置や人材育成を行う人材マネジメントのことです。

タレントのあらゆるデータをまとめて管理し、リーダー候補となる優秀な人材を育てることを目的とした人事戦略にも大いに役立ちます。

タレントマネジメントが中小企業に向かない4つの理由

近年、 労働市場の変化やワークライフバランスを意識した働き方が注目されている中で、タレントマネジメントを取り入れる企業も増えてきました。

しかしタレントマネジメントは、従来の人事制度が多く残っている中小企業にはそれほど向いている方法ではないといえます。ここからは、なぜタレントマネジメントが中小企業には向かないのかを解説します。

理由① 導入のコストがかかる

タレントマネジメントを行う場合、人事評価システムの導入に始まり、現状を把握し課題の洗い出しや評価制度の基本設計、人事戦略の立案や見直し、人材育成にまつわる教育研修など、やることが多岐にわたります。少人数の企業だと、通常の業務以上の負担が予想できます。

新たに評価制度を設計するにあたり、今いる社員で対応できなければ、さらに人件費が必要となる場合もあるでしょう。

また、業務範囲や社員数でも左右する部分として、コンサルへの外注費やシステム利用料などもかかります。

このように、タレントマネジメントを行うためには多くのコストがかかります。中小企業の場合、予算的に余裕がないと導入は厳しいといえます。

理由② 中小企業で主流なメンバーシップ型雇用はタレントマネジメントに向かない

日本では従来の雇用方法であるメンバーシップ型雇用とは、新卒の一括採用、年功序列、終身雇用といった、多くの中小企業で取り入れている雇用方法です。

メンバーシップ型雇用は、最初に一定数の人材を雇用した後、各部署で経験を積みながら移動を繰り返し、総合的にスキルを身に着けキャリアを形成していきます。「先に人材を基準に考え、後から業務内容を当てはめていく」という考えをとります。日本的な雇用慣行であるといえるでしょう。

一方タレントマネジメントの発祥は欧米にあります。そのため、日本の雇用慣行に適合するには、かなりのカスタマイズが必要となります。

ちなみに欧米型の雇用慣行は、ジョブ型雇用です。ジョブ型雇用では、「決められた業務内容に対して、適切な人材を配置する」といった考え方をとります。

このジョブ型雇用では人材とスキル、そして成果の一貫性がとりやすく、タレントマネジメントが行いやすいというメリットがあります。あらかじめ業務が決まっているので、スキルを持った人材を配置したり育成したりすることで、自ずと成果が上がりやすくなるのです。

そのため、タレントマネジメントを行うにはジョブ型雇用が向いており、考えが対照的なメンバーシップ型雇用ではあまり向いていません。

【関連】 ジョブ型雇用とタレントマネジメントの関係とは?日本型雇用におけるタレントマネジメントとの違い、導入事例、タレントマネジメントシステムの活用について | コラム | 人材管理・タレントマネジメントシステムのスキルナビ

理由③ 中小企業にはそもそも「タレントがいない」問題がある

「タレントマネジメント」における「タレント」とは、一人でトップクラスの業績を上げる有能なハイパフォーマーのことを意味します。

少子化が進み、人口の減少がみられる現代では、そもそも人材不足を問題としている中小企業が多くあります。

その中で、さらに有能なパフォーマンス力を持った人材となると、中小企業ではそこまでの成果が出せるタレントがいない場合も考えられます。タレントにスキルが備わってないと、戦略的な人事配置も容易ではありません。

したがって、有能な人材がいない中小企業ではタレントマネジメントを導入しても、うまく活用できない場合があるのです。

理由④ タレントにリソースを投下しすぎると組織内の不和が起きる

中小企業は社員が少ない分、働く上で人間関係が重要になります。有能であるタレントのみを大切にしすぎると、ほかのメンバーから反発が起き、良好だった人間関係に問題が起きかねません。

結果、組織として機能せずに業務に支障をきたし、業績が悪くなる場合も考えられます。これではタレントマネジメントの目的をなさず、かえって逆効果です。

社員ひとり一人が戦力とならなければ厳しい中小企業では、タレントのみに絞った育成は難易度が高いといえます。

中小企業がタレントマネジメントよりも先に導入すべき6つの手法とは

上記で説明した理由により、中小企業においては、いきなりタレントマネジメントを完璧に実現しようとすることは現実的ではありません。

それよりも前に、解決すべき課題や実施すべき施策があります。次に紹介する方法を実践した後でタレントマネジメントの導入を検討しても遅くはありません。

手法① ジョブ型雇用・ロール型雇用の導入

多くの中小企業では、メンバーシップ型と呼ばれる従来の雇用方法が主流ですが、ますは雇用方法の切り替えを試みてみましょう。

専門性の高い人材を雇用するならば、ジョブ型雇用が向いています。ジョブ型雇用では、決められた業務内容に対して適切な人材を配置するため、その職務をこなせる高度なスキルを持った人材を積極的に採用できます。

ジョブ型雇用のほかには、ロール型雇用という手法もあります。ロール型雇用とは、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の中間に位置付けられている雇用方法です。

ロール型雇用では、メンバーシップ型の採用を行った社員に対し、求める役割(ロール)を定めます。これにより、メンバーシップ型雇用より一人ひとりの責務や期待を明確化することが可能です。またジョブ型雇用に比べ、詳細な業務内容や必要なスキルを決めなくてもよいので、その分、労力が少なくてすみます。

また、ロール型雇用にはメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用のハイブリッド的な制度であるため、メンバーシップ型からロール型に切り替えやすいといったメリットがあります。働きぶりや勤務態度ではなく、決められた責務の達成度を元に評価できるため、昨今の多様な働き方で必要とされる、テレワークやリモートワークにも向いています。

タレントマネジメントを実現するために将来的なジョブ型雇用への移行を検討する中小企業は、まずロール型雇用への移行を実現し、その後段階的にジョブ型雇用的な要素を高めていくとよいでしょう。

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ジョブ型雇用とは? わかりやすくメリットや問題点を解説します | ヒョーカラボ

手法② 複業人材・外部人材の活用

人材を確保するには、直接雇用ではなく、専門人材を外部人材として活用していく方法もあります。

優秀な人材を確保できれば人手不足を解消でき、なおかつ経営目標の達成にも繋がります。自社にはない、新しい視点やネットワークによる変革も期待できます。

特に中小企業は、人材の持つ専門性の高いスキルが業績に直結することを、実感値として持つことが重要です。

手法③ 評価制度の見直し

タレントマネジメントを行う上では、年功序列を見直し、より能力や実績を重視した評価をすることが求められます。

そのため、タレントマネジメントを導入する前に、まずは人事評価制度の再構築を行う必要があるのです。

社員のモチベーション向上や成長を促すためにも、まずは評価制度を見直しましょう。

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手法④ 「ピープルマネジメント」という発想を取り入れる

タレントマネジメントでは、基本的に次世代リーダーや幹部候補生に絞ってリソースを投下し、人材育成を行っていきます。

しかし中小企業においては組織内での軋轢が生じやすい、圧倒的なハイパフォーマーが現れにくい、といった問題がありました。

そこで中小企業では、ハイパフォーマーに絞って人材育成を行うのではなく、チーム全体の底上げを目指す「ピープルマネジメント」の発想を取り入れてみることをおすすめします。

ピープルマネジメントとは、メンバーである社員ひとり一人に向き合い、パフォーマンス力を最大限に引き出し成功させることで、結果的にチーム全体の成果を最大化する方法です。

人数が少ないため、人間関係が大きくビジネスに影響する中小企業だからこそ活かせるマネジメント方法でもあります。ピープルマネジメントを通じ、個人とチームの両方の成長を目指しましょう。

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手法⑤ 1on1ミーティングの導入

1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う面談のことです。面談といっても、従来の人事評価を主とした個人面談とは少し違います。通常業務に関しての課題や悩み、部下の目標に対しての現状、身体や精神的な健康状態まで、話す内容は様々です。

1対1での対話を通じ、上司・部下間のコミュニケーションがスムーズになり、人間関係が円滑になります。また部下自身が自発的に気付き、成長するきっかけにもなります。上司としては、現場での状況を把握できるのに加え、部下のメンタルケアやモチベーションアップのきっかけとなる貴重な機会となります。

1on1ミーティングは、社員の持つ「才能=タレント」を伸ばす上でも有効な手段です。うまく使っていくと、上司と部下にとってだけではなく、チームとしてもよい効果を生み出すでしょう。

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手法⑥ スキルマップの導入

スキルマップとは、社員のスキルを可視化し、一元管理できるようにした表のことです。どのスキルを誰が持っているかがわかるため、異動や配属、プロジェクトのアサインや人材育成などに活用できます。

社員間でスキルやノウハウの共有にも役立つほか、評価によって強みや弱みも明確になるので、ライバル心が芽生えて自発的な成長も期待できます。

このように、スキルマップはタレントマネジメントシステムをシンプルに実現したものといえます。

中小企業の場合、コストや業務面で負担が増えるタレントマネジメントよりも、シンプルにスキルマップだけを実装した方が使いやすく、効果が出しやすいと考えられます。そのため中小企業はスキルマップの活用から始めることをおすすめします。

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中小企業はタレントマネジメントよりも先にやるべきことがある

新たな人材マネジメントして注目されているタレントマネジメントは、中小企業にとってコストもかかる上に、円滑に運用するまでには大掛かりであり、社員間での衝突も起きやすいです。

中小企業にとって、タレントマネジメントよりも成果の出しやすく導入しやすい方法としては、1on1ミーティングやスキルマップを導入などがあります。また外部専門人材の活用や人事評価制度の見直しなど、タレントマネジメントを行う前に着手すべきことも多くあります。

これらの取り組みを行った上でさらに発展させたければ、その際に改めてタレントマネジメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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