ジョブ型雇用を知りたい!特徴とメリット・デメリットとは?

時代の変化に伴い、日本の雇用事情も大きく変化し、新たな雇用方法である「ジョブ型雇用」を導入する企業も増えました。 

しかし、ジョブ型雇用について耳にする機会はあっても、制度の概要を知らない人も多いと言えます。

当記事では、気になるジョブ型雇用の特徴をはじめ、メリット・デメリットも解説します。

ジョブ型雇用を知ることで、採用のトレンドを把握できるだけでなく、今後の採用活動に役立つことでしょう。

ジョブ型雇用とは何か?

まずはジョブ型雇用について、概要を説明します。

ポイントは、以下の3つです。

①欧米で主流の雇用方法である

ジョブ型雇用は欧米で発祥し、現在でも主流となっている雇用方法です。

一方で日本において古くから導入され、主流となっている雇用方法が、メンバーシップ型雇用だと言えます。

メンバーシップ型雇用では、年齢・職歴に比例して評価される「年功序列制」を基盤とすることが特徴です。

しかし昨今の日本では、メンバーシップ型雇用に限界を感じる企業も多く、大企業を中心とし、ジョブ型雇用を取り入れるケースが増えています。

欧米で【ジョブ型雇用】が主流で、日本では【メンバーシップ型雇用】が主流になった背景には、重視するものが異なることが挙げられます。

欧米:職務を重視する
欧米では組織に重きを置くことから、仕事でも「職務」を重視します。そのため、決められた「職務」に対して、対応しうるスペシャリストを求めると言えます。
日本:人を重視する
日本では人に重きを置いており、入社後に教育を施しながら、プロに育てあげるという風潮が強いです。そのため、人柄を重視して採用を行い、適所に配置をするメンバーシップ型雇用が主流となりました。

②職務内容が明確である

前述の通り、ジョブ型雇用では「職務」を重視しているため、職務内容を明確に決めてから、募集をかけるという流れを取ります。

また職務の内容は、ジョブ・ディスクリプションという職務記述書に掲載されます。

※詳しくは「ジョブ・ディスクリプションに職務内容が記載される」の項目を、参照してください。

③年功序列ではなく成果で判断する

日本に浸透するメンバーシップ型雇用では、年齢や社歴が高い人が評価される傾向にあり、いわゆる年功序列制を導入しています。

一方でジョブ型雇用では、あくまで成果で判断されるため、年齢が若く社歴が浅い人であっても、能力があれば活躍できると言えます。

つまり年齢や社歴を重ねていても、能力が低い人に対しては、評価がされないことが分かります。

ジョブ型雇用の特徴について

ここまでの話で、ジョブ型雇用に関する概要を説明しました。

次に、ジョブ型雇用に対する理解をより深めるため、特徴について詳しく解説します。

ジョブ・ディスクリプションに職務内容が記載される

ジョブ型雇用の特徴の1つ目は、以下のような職務内容が、ジョブ・ディスクリプションという職務記述書に対して、明確に記載されることです。

 主な記載内容
業務内容・遂行する仕事内容・重要度が高い業務
・行う頻度が高い業務
能力・企業から期待される目標
・与えられるミッション
・必要な資格名(※ただし、必須とする資格がある場合に限る)
労働時間・出社時間
・退社時間
・休憩時間
勤務地・具体的な勤務地
・転勤がある場合には「自宅から1時間以内」などの条件が記載される
その他・必要な学歴
・福利厚生などの待遇
・部下の人数
・報告義務のある上司名
など

従業員は、ジョブ・ディスクリプションに記載された内容に従い、業務を遂行します。

そのため、記載外の内容に関しては、対応の義務はないと言えます。

基本的に配置転換がない

ジョブ型雇用の特徴の2つ目は、基本的に異動や転勤などの「配置転換」がないことです。

なかには配置転換が行われるケースもありますが、その場合には、あらかじめジョブ・ディスクリプションに「勤務場所はA支店またはB支店に限る」などの条件が記載されています。

成果主義である

ジョブ型雇用の特徴の3つ目は、成果主義であることです。

なぜならジョブ型雇用では、ジョブ・ディスクリプションに沿った行動が求められ、いかに忠実に業務を遂行し、結果を残したかという点が評価されるからです。

つまり成果主義では、社歴や年齢が評価に関係することは、皆無だと言えます。

専門性の高い人を採用できる

ジョブ型雇用の特徴の4つ目は、専門性の高い人を採用できることです。

あらかじめジョブ・ディスクリプションに、求める能力などを記載しているため、条件に合った人を採用するからです。

とは言え、以下の状況に当てはまる場合には、応募者が来ない可能性もあることから、注意が必要です。

●ジョブ・ディスクリプションに高度な専門性を記載しすぎる

→細かく条件を記載することは、双方のミスマッチを防ぐためにも、重要だと言えます。

しかし、高度な専門性を記載しすぎると、そもそも条件に合う人が見つからないこともあります。

●能力に見合った給与設定にしていない

求める能力に対して、低めの給与額を設定にしているケースでは、応募がなかなか集まらないでしょう。募集する人材に対して、適切な給与額を設定することをおすすめします。

ジョブ型雇用を導入する日本の企業

昨今では、大企業を中心として、日本でもジョブ型雇用を導入する企業が増えています。

以下に、5社の例を取り上げます。

日立製作所

日立製作所では、以前からグローバル化を意識する動きが盛んであり、社員の半数以上が海外で勤務しています。

そのため、海外を意識した雇用方法を導入することになり、2020年からは本格的に人事制度として、ジョブ型雇用の運用を開始しました。

主な概要
●2008年の7,873億円にわたる大赤字の経験から、雇用制度も下記のように見直しを図る
●個別の給与設定となる「デジタル人財採用コース」を設ける
●1on1ミーティングや自立的キャリア形成のサポートを導入し、ジョブ型雇用の基盤を強化
●2021年には、300~400種類のジョブ・ディスクリプションが完成する

富士通

富士通では、必要な人材を採用するために、ジョブ型雇用の導入を開始しました。

また新型コロナウイルスの出現により、テレワークが拡大した背景も、影響しています。

主な概要
●2020年に、国内の幹部社員に対して、職責ベースの「FUJITSU Level」を導入
●2021年4月には、課長職において、ジョブ型雇用の採用を発表
●一般社員に関しては、労働組合と調整を行いつつ、数年後にはジョブ型雇用への移行を目指す

資生堂

資生堂では、適材適所を推進し、海外とのスキルの差を無くすべく、ジョブ型雇用の導入を開始しました。

主な概要
●2015年に、約1,200人の管理職を対象とし、役割階級制度を導入
●2021年1月には、約1,700人の管理職を対象とし、上記の役割階級制度を改定した「ジョブグレード制度」を導入
●2021年1月からは、一般職の約3,800人に対して、ジョブグレード制度を適用

三菱ケミカル

三菱ケミカルでは、2017年の三菱グループの統合(三菱化学・三菱樹脂・三菱レイヨン)を皮切りとし、ジョブ型雇用の導入を開始しました。 

主な概要
●2017年に3社を統合した際に、職務等級制を採用
●2020年10月に、前述の職務等級制を改訂し、新人事制度を導入
●2021年4月には、一般職の約12,000人に対して、ジョブ型人事制度を適用

KDDI

KDDIでは、日本における人口の減少や、携帯市場の飽和について危惧し、逆風の中で生き抜くための策を考えました。

その1つとして、ジョブ型雇用の導入を開始しました。

主な概要
●2020年7月に「新働き方宣言」を策定し、成果や能力を反映する「ジョブ型人事制度」の導入を発表
●2020年8月に、中途の正社員に対して、前述の「ジョブ型雇用制度」を適用
●2021年4月には、管理職の約2,400人と新卒社員に対して、ジョブ型雇用制度を適用

ジョブ型雇用のメリット・デメリットとは?

前述の通り、日本でも大企業を中心とし、ジョブ型雇用の導入が進められています。

導入へのメリットは多々ありますが、その反面として、デメリットが存在することも忘れてはいけません。

以下に、ジョブ型雇用のメリット・デメリットを詳しく解説します。

メリット

ジョブ型雇用を導入するメリットは、以下の通りです。

人材の多様化に対応できる

時代が移り変わる中で、人々の属性や思考に変化があり、人材においても多様化が進んでいると言えます。

属性・思考における変化は以下の通りです。 

【①属性】
性別…女性の社会進出が進み、結婚/出産後も働く女性が増える
●国籍…グローバル化が進む中で、外国籍の労働者に頼る部分も大きい
●年齢…一般的な定年(65歳)を過ぎたシニア世代でも、契約社員やアルバイトとして働く人が多く存在する
【②思考】
●ライフスタイル…テレワークを行う人や、時短で働く人などの存在が、当たり前となる
●価値観…1つの企業で正社員として働く「終身雇用」の考えが崩壊し、転職をする人や、雇用形態にこだわらない人が増える

以上のような「人材の多様化」への対応を考えた際に、フルタイムで働ける正社員を対象とし、終身雇用を基盤とするメンバーシップ型雇用では、厳しい部分があると言えます。

人材をうまく確保できず、他社との競争から出遅れる可能性もあるでしょう。

一方でジョブ型雇用を導入すると、さまざまな働き方に対して、柔軟に対応ができるようになります。

専門性の高い人が集まることで、生産性がアップする

ジョブ型雇用では、ジョブ・ディスクリプションを用いて、スキルや能力を明確化した状態で公募を行います。

そのため、明確化した条件に合致する「専門性の高い人」を採用できることから、スペシャリスト集団を作ることが可能であり、生産性がアップすると言えます。

求める人材とのミスマッチが減る

採用後に、従業員の能力が不足している点に、気が付くケースは多々あります。

ジョブ型雇用を導入すると、ジョブ・ディスクリプションに記載された「必要な能力・スキル」に従って人材を採用することから、ミスマッチが減ります。

ミスマッチが減ることによるメリットは、以下の通りです。

■早期の離職を抑えられる

→ミスマッチが生じると、従業員も違和感を持つ可能性が高まるため、早い段階で離職をする人が増えます。

一方でジョブ型雇用を導入すると、マッチング率が高まるため、早期の離職を抑えられると言えます。

■業務の効率が良くなる

→ミスマッチが減ることにより、企業が求めている人材が揃うため、最大限のパフォーマンスを発揮しやすくなります。

そのため、業務効率が良くなると言えます。

デメリット

ジョブ型雇用を導入するデメリットは、以下の通りです。

人材の流動性が高まる

ジョブ型雇用を導入すると、基本的に配置転換がなく、他部署との交流も最小限になることから、コミュニケーションが希薄になりがちです。

そのため、企業への帰属意識がうすくなる傾向にあり、きっかけがあれば、他社への転職を考える人が増えるでしょう。

以上のことから、ジョブ型雇用を導入する企業では、人材を流動させないための工夫が必要になります。

組織への柔軟性が少なくなる

ジョブ型雇用を導入した場合には、ジョブ・ディスクリプションに記載した配置転換の方法以外には、対応をすることが難しいです。

そのため、会社の都合で配置転換をすることが、実質上できなくなります。

つまり組織の変更を考えた場合に、柔軟性が少なくなることがデメリットだと言えるでしょう。

解雇の面でトラブルが生じる可能性がある

現行の労働基準法・労働契約法は、従来からのメンバーシップ型雇用を前提として作っているため、ジョブ型雇用とは相性が合わない部分があります。

代表的な内容として、解雇におけるトラブルが挙げられます。

欧米のジョブ型雇用をそのまま導入すると、対象のポジション自体を廃止するか、従業員を対象のポジションから外す場合には、解雇をする必要があります。

例えば会社の業績悪化・方針の変化や、本人の能力が不足しているケースが考えられるでしょう。

解雇をする際に、現行の労働契約法に当てはめると、以下のようなトラブルの発生が考えられます。

~考えられるトラブル~
●従業員が拒否した際に、労働契約法の「(※)解雇濫用法理」によって、解雇ができない
●上記の通り、解雇ができない場合には、従業員に仕事が無い状態にも関わらず、給与の支払い義務が発生する

(※解雇濫用法理とは?

→第三者から見て、合理的な理由だとみなされ、解雇が一般的に妥当な処置だと認められない場合には、解雇が無効になるというものです。) 

こうした状況を回避するために、就業規則に独自のルールを設けるなどの対策が、必要だと言えるでしょう。

まとめ

ジョブ型雇用とは、欧米で主流の雇用方法であり、人ではなく職務を重視することが分かりました。

そのため、従来のメンバーシップ型雇用で提唱される「年功序列制」や「終身雇用制度」とは対比の関係であり、能力や成果が重視されると言えます。

日本においても、時代の流れに対応するために「ジョブ型雇用」を導入する企業が増えていますが、導入を検討する際には、メリット・デメリットを踏まえることが大切です。

実際にジョブ型雇用を導入する際には、社内規程の整備も、同時に行うと良いでしょう。

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