コンピテンシー評価のサンプルは? シートを作る上でのモデルを紹介

「コンピテンシー評価を新しく導入したい」

「でも評価シートやコンピテンシー項目をゼロベースから作るのは大変」

「コンピテンシー評価を行う上で役に立つサンプルやテンプレートがあったら使いたい」

この記事ではそんな方に向けて、コンピテンシー評価を新しく導入する上で便利なモデルやサンプル、テンプレートを紹介します。

コンピテンシーの評価シートを作る上での参考にしてください。

コンピテンシー評価のテンプレート・サンプル

コンピテンシー評価を行うためには、評価シートを作成する必要があります。

評価シートは基本的に自社の運用にあわせて作成することが望ましいですが、シートを作る上では、大きく以下3点についてサンプルやテンプレートを参考にすることが可能です。

・評価する項目

・評価項目の詳細

・評価基準と評価段階

評価する項目

コンピテンシー評価の評価項目には、以下3点が参考にできます。

・スペンサー&スペンサーのコンピテンシーディクショナリ

・ウィリアム・マーサー社の「28のコンピテンシー」

・情報処理推進機構の「iコンピテンシ ディクショナリ」

例①スペンサー&スペンサーのコンピテンシーディクショナリ

ライル・M. スペンサー、シグネ・M. スペンサーが提唱したコンピテンシーディクショナリは、コンピテンシー評価の項目を考える上で参考になります。

コンピテンシーディクショナリとは、多くの企業や組織で汎用性の高いコンピテンシーについて、大まかなカテゴリーと項目を定めたリストです。具体的には、以下6つのコンピテンシー群、21のコンピテンシーで表されます。

コンピテンシー群 コンピテンシー
達成・行動 達成思考
秩序・品質・正確性への関心
イニシアチブ
情報収集
援助・対人支援 対人理解
顧客支援志向
インパクト・対人影響力 インパクト・影響力
組織感覚
関係構築
管理領域 他社育成
指導
チームワークと協力
チームリーダーシップ
知的領域 分析的志向
概念的志向
技術的・専門職的・管理的専門性
個人の効果性 自己管理
自信
柔軟性
組織コミットメント

【参考】日本におけるコンピテンシー―モデリングと運用―(井村直恵)/CORE – Aggregating the world’s open access research papers

この21のコンピテンシーを参考に、自社にあった項目を検討していくとよいでしょう。

例②ウィリアム・マーサー社の「28のコンピテンシー」

組織・人事や福利厚生などの分野におけるコンサルティングサービスを提供しているウィリアム・マーサー社(現マーサー社)は、1999年に上梓した「戦略人材マネジメント」にて、28のコンピテンシーを提示しています。

スペンサーらのコンピテンシーディクショナリと同様に、この分類も参考にしながら、具体的な項目を検討するとよいでしょう。

28のコンピテンシーを以下にまとめます。

①遂行/追求 ②適応/調整 ③統合/展開 ④創造/変革
(1)自己 自己統制力 自己適応力 自己展開力 自己変革力
(2)対人 対人追求力 対人協調力 対人指導力 対人変革力
(3)成果 成果追求力 成果調整力 成果統合力 成果創造力
(4)戦略 戦略遂行力 戦略調整力 戦略立案力 戦略創造力
(5)思考 論理追求力 論理伝達力 論理統合力 論理創発力
(6)情報 情報追求力 情報伝達力 情報統合力 情報創造力
(7)時間 効率追求力 効率調整力 効率統合力 効率創発力

【参考】新しい能力主義としてのコンピテンシーモデルの妥当性と信頼性/谷内篤博

この表の優れている点は、対象を表す縦列と、能力や行動特性を表す横列との組み合わせでコンピテンシーが成立する点です。たとえば「(7)時間」を対象とし、「①遂行/追求」を行うと、そのコンピテンシーは、「効率追求力」となります。

各職種や職位と必要となるコンピテンシー項目を、この表を元に考えていくと、網羅性が高く洗い出せます。

例③情報処理推進機構の「iコンピテンシ ディクショナリ」

情報処理推進機構による「iコンピテンシ ディクショナリ」は、IT関係の職種におけるタスクやスキルの一覧を完備しています。コンピテンシー項目を考える上では、スキルディクショナリを参照するとよいでしょう。

iコンピテンシ ディクショナリのスキルディクショナリは、以下よりダウンロードできます。

i コンピテンシ ディクショナリ(iCD):IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 

評価項目の詳細

各項目について、具体的に何を評価するのか、説明文を付与していきます。これも自社の運用にあわせて記入する必要がありますが、各評価項目についてどのような内容を記載すればよいかは、株式会社あしたのチームが作成している「コンピテンシーマスター評価項目一覧」が参考になります。

以下にあしたのチームによるコンピテンシー項目と説明文の一覧を引用します。

【全社共通目標向き】

A群:自己成熟性
■冷静さ 感情に動かされることなく、落ち着いて物事に動じない
■誠実さ 仕事や他人に対して、まじめで真心がこもっている
■几帳面さ 物事をすみずみまで気をつけ、きちんとしている
■慎重さ メリット・デメリットを考え、注意深く行動する
■ストレス耐性 落ち込むことがあっても素早く立ち直る
■徹底性 一度決めたことは、途中で投げ出さず、何度でも繰り返して行う
■率直性 自分自身や自分の考えを包み隠さず表明する
■自己理解 自己を正確に認識し、対処する
■思いやり 相手の立場や気持ちを理解し対処する
■ビジネスマナー 一流のビジネスマンとして恥ずかしくない立ち居振る舞いをしている

B群:変化行動・意思決定
■行動志向 ためになることであれば体を動かすことをいとわない
■自立志向 自らの立てた規範や意義・目的に従って行動する
■リスクテイク 失敗の可能性があっても、思切って可能性のあることに冒険を試みる
■柔軟思考 状況の変化に応じて、臨機応変に対処している
■素直さ 相手の意見や指摘をまずは受け入れる
■自己革新(啓発) 自己の足りない部分や知識・技能を、自ら積極的に取り入れている
■チャレンジ性 斬新なテーマや、高い目標に果敢に取り組んでいる
■反転志向 意図的に逆の行動をとり、真意や効果を引き出している
■タイムリーな決断 どんな状況、問題でも時機を逸することなく意思決定している
■目標達成への執着 最後の1分、1秒まで目標達成をあきらめずに、打てる手はすべて打つ

【営業関連職向き】
C群:対人(顧客)・営業活動
■親密性/ユーモア 心からの感じのよ/その場をなごますユーモアがある
■第一印象度 最初に会って1分以内の、他人に対して好印象を与える本人の言動
■プレゼンテーション力 伝えようとしている内容を、的確かつ説得力をもって表現している
■傾聴力 相手の立場に立って話を聴く
■条件交渉力 組織を代表して社外の人と接し、協力・理解を取りつける
■新規開拓力 新しい顧客を増やす力
■顧客維持力 現在の顧客との緊密さを維持できる力
■顧客拡大力 現在の顧客に、新商品やサービスを新たに提案し、顧客の売上・利益を拡充できる力
■人物評価 相手の能力・強み弱みを正確に把握し、対応する
■人脈 当社の取引に革新を起しそうな人達と懇意である

【どの職種にも適している】
D群:組織・チームワーク
■上司・先輩との関係 上司・先輩とのコミュニケーション、補佐代行を怠らない
■チーム精神の発揮 効果的に仕事を遂行するために、自ら苦労を買って出る
■ムードメーカー性 本人の存在や言動が、チームを目標達成意欲にみなぎらせる
■マンパワーの結集 (リーダーではないが)多くの人の知恵や力を集め、まとめ上げる
■政治力 自ら働きかけ、組織を動かすためのツボや手段を持ち合わせている G群:情報
■情報の収集 さまざまな情報源から定期的に豊富な情報を仕入れている
■情報の整理 集めた情報をすぐに使えるように定期的に整理・加工している
■情報の伝達 相手の欲している情報をタイミングよく伝える
■情報の活用と共有化 知り得た情報を公開し、共通のノウハウとしている
■情報の発信 情報を自分なりに追加、修正、加工し、周囲に発信している

【管理関連職向き】 E群:業務遂行
■専門知識/革新技術の習得 業界で一流といわれる知識と技能を習得している
■文章力 目的が相手に明瞭に伝わる文章を書いている
■計数処理力 計算が速く、数値の意味することを即座に理解している
■安定運用 業務の流れを把握し、担当業務を正確に運用している
■処理速度 業務遂行スピードが速い
■コスト意識 費用対効果を常に考え、最低限のコストで業務遂行をしている
■トラブル処理 万一、クレームやトラブルが生じた場合でも的確に処理している
■計画性 スケジュールにもとづき、段階を追って物事を進めている
■業務改善/品質の向上 担当業務のやり方・手段、あるいは仕事そのものを、自ら提案してより良くしている
■業務企画力 業務の流れや段取り、ツール等を独力で作れる力

【企画・クリエイティブ職種向き】
F群:戦略・思考
■視点の広さと深さ 先見性、革新性をもって課題をとらえる
■アイデア思考 新たな発想で事実や情報の活用を考える
■論理思考 物事を客観的にとらえ、筋道を立てて自分の考えを展開する
■状況分析 物事の原因と結果を正確にとらえる
■解決策の立案 (小さな改善提案ではなく)担当業務における構造的・潜在的な問題、将来的な課題に対するプランニング
■リスク管理 あらかじめ予測されるトラブルを想定し、予防策や代替案を用意する
■コンセプトの設定 今後取り組むべき課題やキャッチフレーズを自ら提示する
■経営資源の活用 目標達成のために、ヒト・モノ・カネ等、経営資源の活きた使い方をする
■アイデアを活かす力 他人のアイデアを加工し活用する
■思考持久力 一つのテーマに対して、あらゆる角度から長期にわたり徹底的に考える

【役職向き】
H群:リーダー
■理念・方針の共有 経営理念・方針、新しいやり方をわかりやすく部下・後輩に理解させ、実行させる
■経営への参画 部下・後輩を上手に計画・企画立案や改善活動に参加させる
■部下・後輩の指導/育成 育成 部下・後輩に気づきを与え、仕事を通じて計画的に部下の人間性を高め、成長させる
■権限の委譲 やる気と意欲のある部下・後輩に、思い切って仕事を任せ、伸び伸びと仕事をさせる
■部下・後輩への配慮 部下・後輩への気配り、心配り
■コミュニケーションの充実 ひとり一人の部下・後輩とより良い信頼関係を築き、効果的に仕事に活用する
■指揮・命令・徹底 目標や新しいやり方、規則やルールを部下後輩に徹底して守らせる
■経営幹部との関係 よい意味での緊張感を保ち、適切な報告・連絡・相談をする
■部下・後輩に対する公平さ 部下・後輩を分けへだてなく扱う
■採用と抜擢 「素材」を見出し、場を与える
■目標の管理および評価 具体的な目標を設定し、定期的に途中面談し、結果を評価する
■部下・後輩との対立 部下・後輩に嫌われることを恐れず、言うべきこと厳しいことを堂々と言う
■システム管理力 既存の管理システムを利用し、経営の実効性を上げている
■業務管理力 業務効率アップのために、仕事の流れや分担をしっかりとチェックする
■後継者の育成 自分の腹心(分身)決め、計画的に特別教育している

【出典】コンピテンシー評価の評価項目とは?具体例を基に解説 – あしたの人事オンライン

評価基準と評価段階

各評価項目について、何段階で評価を行うか、および評価基準をどうするかを決定していきます。

どの程度詳しく基準を定めるかについては、高原暢恭氏による「人事評価の教科書」が参考になります。以下はコンピテンシー評価ではなく業績評価に関する記載となっていますが、その趣旨や内容はコンピテンシー評価に十分転用可能です。

「人事評価の教科書」によると、まず大まかに全等級に対し適用する「共通設定基準」を設けます。たとえばS~Dの5段階で評価するのであれば、以下のように、それぞれが大まかにどのようなレベルなのかを定めてください。

【出典】人事評価(人事考課)の基礎知識 – 人事評価尺度基準|人事のための課題解決サイト|jin-jour(ジンジュール)

その上で、個別に基準を定めていきます。以下の例は数値で表現できるためわかりやすいですが、コンピテンシー評価では文章などで何をもってSとするのか、評価者が迷わないよう明確に定める必要があります。

【出典】人事評価(人事考課)の基礎知識 – 人事評価尺度基準|人事のための課題解決サイト|jin-jour(ジンジュール)

以上のような手順で、評価段階と評価基準を決めていきましょう。

なお、評価段階数を決める上では、以下の記事も参考になります。

コンピテンシー評価はサンプルを参考に自社にあった運用を心がけましょう。

この記事では、コンピテンシー評価のシートを作成する上で参考になるサンプルやテンプレートについて解説しました。

コンピテンシー評価は、自社の運用にあわせたオリジナルの項目を作成し、運用していくことが肝要です。

ただ、全くゼロベースから評価項目やシートを作成しなければいけないわけではありません。今回紹介したようなサンプルを参考にしながら、自社にあったシートや運用へとカスタマイズをしていきましょう。

資料ダウンロード

【令和版】評価制度の作り方
【令和版】評価制度の作り方

この資料で分かること

  • 今、人事評価制度を作る必要性
  • 人事評価制度 タイプ別メリット・デメリット
  • 評価項目サンプル